Interview 05

電通での14年間を経て、DCXforceへ
新CSO天野彬が描く「SNSマーケからブランドの資本化へ」という戦略

インタビュー

執行役員 CSO
天野 彬
Akira Amano

目次

電通でSNSマーケティングの研究・実務の両面をリードしてきた天野彬が、2026年4月よりDCXforce執行役員CSOに着任した。背景にあるのは、「マーケティングは企業価値にどう接続されるべきか」という問題意識の深化だ。広告のオペレーションがコモディティ化する時代において、私たちはどのような価値を生み出せるのか。SNSマーケティングからブランドの資本化へ――その思考の変遷と、新たに提唱する「Brand Capital Strategy」について聞いた。

0.略歴

株式会社DCXforce 執行役員 Chief Strategy Officer
一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了(M.A.)の後 、2012年新卒で株式会社電通に入社。
SNSを中心としたデジタルマーケティング分野の研究開発、戦略コンサルティングを牽引。
2026年4月より株式会社DCXforceへ参画。執行役員CSOに就任。
著書は『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』『SNS変遷史』『シェアしたがる心理』『情報メディア白書(共著)』『広告白書(共著)』など多数。
日本広告学会理事、明治学院大学社会学部非常勤講師を務め、実務と学術を架橋する活動に従事。
日経電子版Think! エキスパートコメンテーター、Forbes JAPANオフィシャルコラムニストとして、広告マーケティング分野のオピニオン発信・形成の活動にも取り組んでいる。
TikTok for Business Japan Awards 2024 Creative Category審査員(2024年)。

1.自己紹介

これまでの経歴を教えてください。

天野  インターネットやSNSの動向に関心を持ち、大学院の修士課程まで進みました。その後、2012年に電通へ入社し、ソーシャルメディアを中心としたデジタルマーケティングの研究開発や戦略コンサルティングを黎明期より牽引。新しいテクノロジーがビジネスに与える影響に一貫して関心を持ち、実務と学術のあいだを往復しながら、その両方を更新してきました。書籍出版やメディア寄稿、アワード審査員を通じて、発信・啓発活動にも取り組んできました。また、日本広告学会理事、日経新聞電子版Think! エキスパートコメンテーターを現任しています。

前職の電通ではどんな仕事を手掛けてきたんでしょうか。

天野  様々な業界の国内大手企業に対するデジタルマーケティング戦略やプロモーションの立案に加え、ラグジュアリーブランド経営層へのSNSトレンドに関するコンサルティングなどを担当してきました。プロモーションで携わった商品が、日経トレンディヒット予測ランキングにランクインしたこともありました。また、MetaやTikTok、SmartNewsなど大手テック企業との共同リサーチや、そのPRを通じた媒体販促プロジェクトも主導しました。

DCXforceへの入社の理由を教えてください。

天野  これまでの仕事に加えて、その先にある「それが事業や企業価値にどうつながるのか」という問いに関心が移っていきました。マーケティングは広告・プロモーションに留まるものではありません。企業価値に直結する戦略を実装していきたいと考えたことが大きいです。意思決定に近いポジションで、戦略・クリエイティブ・実行が近接する環境であればそれが実現できる。そして、少数精鋭だからこそ次の時代に適合した新しいモデルをつくれる。それが参画の決め手でした。

2. これからの広告会社の在り方とは

広告業界はいま大きな変化に直面していると思います、どのように現状を認識していますか?

天野  デジタル化とAIの進展により、広告のオペレーションは急速にコモディティ化していきます。その結果、マーケティングが事業や企業価値にどう貢献するかという上流の問いがより重要になります。例えば、生活者の価値観や文化の変化を捉えた上で、長期的にブランド価値に寄与する「施策のLTV」がポイントになると考えます。広告効果を単発で測るだけでなく、施策がブランド資産として積み上がる長期的な貢献を問うという発想です。それは、デジタル広告の成果が短期指標に偏りがちなところが、正しい測定手法やフレームワークとともに捉え返される必要があるのと表裏一体です。

AIがエージェンシーの在り方にもたらす影響とはどんなものでしょうか?

天野  AIによって制作や運用といったオペレーション面のウエイトは相対的に低下していくでしょう。一方で私たちに残るのは、不確実な状況下での意思決定と、その結果に対する責任です。加えて、どの文化や価値観に立脚し、どの未来を“選び取るか”という美意識が問われる。すべてのエージェンシーがそうなるかはわかりませんが、卓越したプロフェッショナルはそうした判断の中核を担う存在へと純化していくことが求められており、自分もそうありたいと考えています。

3. DCXforceで挑戦したいサービスラインの深化

ではそれらの問題意識を踏まえて、DCXforceで挑戦したいこととは?

天野  前述の変化を踏まえて、二重戦略で行くべきだと思っています。
一つは、これまで培ってきたソーシャルメディア起点のマーケティングを深化させていくこと。企業のアカウント運用はもちろん、ファンベースを築くための生活者のインサイト分析やナラティブ醸成も同様に重要です。高い次元で統合されたPESO(Paid / Earned / Shared / Owned Media)のプランニングをご提供します。
もう一つは、企業価値向上に接続する戦略コンサルティングの強化です。核心は「ブランドを資本化する」という発想です。ファイナンスとマーケティングを接続し、売上や利益といったPL面はもちろん、事業・ブランドの資産価値といったBS面にも届くことを企図します。
それらを推進するシンクタンクとして「New Strategy Institute by DCXforce」を立ち上げ、戦略の解像度そのものを引き上げていきます。

インスティチュートの構想は興味深いですが、どんなテーマを扱うんでしょうか?

天野  SNSやメディア、消費行動の変化を踏まえ、マーケティング知の体系化を進めます。「ブランドを資本として捉える」という視点から、DXやCXの実践知と接続し、企業価値への寄与を測る新しい指標やフレームを提示していきたい。2027年の有価証券報告書における「非財務情報」開示義務化の流れも見据え、企業が意思決定に使える“物差し”をつくることが重要だと考えています。
クライアントワークと「New Strategy Institute by DCXforce」を接続し、戦略と実装を往復しながらソリューションの精度を高めていきます。

クライアントに提供するサービスラインはどう変わっていくのでしょうか?

天野  一つはファンベース醸成のための、リサーチから実行までを一気通貫するSNSマーケティング。PR戦略やパーパス策定などとも一体化した統合的アプローチが重要です。
もう一つが、ブランドという無形資産を可視化・査定する「Brand Due Diligence(ブランドDD)」。そして、貸借対照表に載るような静的な資産(Asset)を、運用しリターンを生む源泉としての動的な資本(Capital)へ。無形資産の評価・開示が経営マターとしてホットであることも意識しています。
だからこそ、ブランドや事業といった無形資産価値を明らかにしたうえで、成長の伸びしろと“きちんと儲かる仕組み”を推進し資本としての活用を最大化する。いわば左脳的な視点と、ファンや生活者に熱量をもって受け入れられる右脳的な「攻めの打ち手」とを統合した「Brand Capital Strategy」を確立させます。

4. このインタビューを読んでいる皆様へ

どんなクライアント・パートナーとお仕事されたいですか?

天野  マーケティングを単なる販促やPRにとどめず、売上トップラインやLTVの向上、ひいては企業価値に直結する経営アジェンダとして捉えられる方とご一緒したいです。DXやCXの変革を通じて事業そのものをアップデートし、その過程で社会や文化とも接続していく。コミュニケーションビジネスは、事業として意味のあることと、取り組んでいてワクワクすることが両立してこそだと考えます。我々もその一員として、外部の専門パートナーと連携しながら、戦略から実行まで踏み込み、経営へのインパクトを創出します。

一緒に働きたい人、理想のチーミングについて教えてください。

天野  DCXforceは年次に関係なく機会が与えられ、成果に応じて役割や待遇が更新される環境です。自ら機会を取りにいき、そのスピード感を楽しめる人と働きたいですね。
それに関連して、誠実で粘り強く取り組めることが最も大切だと思います。加えて、トレンドに敏感で、流行に「なぜ?」を重ねて考えられる人は強い。生活者やクライアントの文脈を踏まえたアイデアの発想を生むし、他者と協業するためのほど良い「柔」の姿勢にもつながるので、良いチーミングにも好影響を与えることが多い印象です。何より、自分自身もそうなので(笑)。